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街を練り歩く山車からぐり
山形県北西部の日本海沿岸に広がる庄内平野の南端、鶴岡市大山地区(旧西田川郡大山町)に鎮座する椙尾(すぎお)神社の例大祭が「大山犬祭り」である。
椙尾神社は、中世、この辺りを治めた武藤氏の創建といわれ、長らく、地域の人々の暮らしのよりどころとしてあがめられてきた。
「椙尾神社の祭礼は、毎年、6月6日に始まって、季節ごとにいろんな神事が行われます。その締めくくりのお祭りが6月5日の例大祭(大山犬祭り)で、上頭(上地区)、大山頭(大山地区)、下頭(下地区)に出かけられた神様をお宮にお返しする日なんです」と、鶴岡市大山自治会事務局長の渡部修吉さん。なお、この祭りは、古記録によれば貞享4年(1687年)から毎年続いている(昭和20年のみ、戦争のため行列が不能になった)という。
つまり、大山犬祭りは本来、椙尾神社の氏子となる3地区のお神輿が練り歩く神事であった。それに、江戸時代、酒造業で栄えた大山の人々が、蓄えた財貨を使って豪勢な大名行列や歌舞伎などを題材にした山車「からぐり」、霊犬「めっけ犬」伝説などを取り入れた、華やかな祭礼を作り上げてきた。
では「めっけ犬」伝説とはどのようなものか。
昔、毎年、若い娘を人身御供に出さないと大山周辺の田畑を荒らす大化け物がいて、人々は仕方なく、祭礼の日に娘をかごに乗せてお宮に送っていた。
ある年の祭礼の日、通りかかった六部(修験者)が窮状を知り、夜、お宮の屋根裏に忍び込むと、2匹の大化け物が「丹波の国のめっけ犬にこのことを聞かせるな」と言いながら人身御供の娘を半分ずつ分け、どこかへ消えた。そこで六部ははるか丹波の国まで旅して、めっけ犬を連れ、翌年の祭礼の前夜に戻ってきた。そうして当日、娘の代わりにめっけ犬をかごに乗せ、お宮に送り込んだ。夜中、現れた大化け物がかごを開けるとめっけ犬が飛び出し、死闘の末、2匹の大化け物を倒し、自らも息絶えた。翌朝、お宮に行くと、大むじなが2匹、死んでいた。
人々は椙尾神社の石段脇にめっけ犬の石像2体を前立ちとして並べ、祭礼に「犬曳(いんこひき)」と人身御供のかごを行列に加えたという。
手ぬぐいを巻いた犬もお祭り見物
6月5日の朝、大山犬祭りの起点となるJR羽前大山駅前には2基のからぐりが並べられ、行列に参加する人々が祭り衣装をまとって集まってきた。
午前11時半、高校のブラスバンド隊を先頭に行列が出発。各地区子ども会の「犬神輿」や小さな子どもたちの犬曳が従った。
先に記したように、大山犬祭りは椙尾神社の祭礼に、大名行列や山車からぐり、めっけ犬伝説などが加わったため、「くねり(行列)」の構成が多彩である。
若者が毛槍を振り回す奴振りや鷹匠、台弓、鉄砲など。神事を担う神官一行の先導で練り歩くお神輿など。めっけ犬の犬神輿。人身御供に見立てたお姫様がかごに乗り、その周りを着飾った小姓や、道化役の奥方奴、奥方たちの一行。沿道の見物衆にお神酒を注いで回る振舞酒。そうして、笛・太鼓の囃子方を乗せ、青年たちが引き回す山車からぐりが行列の最後をにぎやかに彩っていく。
そのうえ、大山周辺の3地区ごとにお神輿を始めとする神官一行や武家行列がある。最初、羽前大山駅前を出発するのは、上頭の行列で、それに地元の大山頭が加わって、大山の街角を練り歩き、椙尾神社に向かう。その間、沿道の商家や民家からお神輿や山車からぐりにご祝儀が渡される。すると、お神輿の担ぎ手は鈴を鳴らし、お神輿を上下に揺らし、山車からぐりも山車を揺らして大喜びする。
沿道の造り酒屋や漬物屋では当主が紋付き袴で一行を迎え、お神輿の担ぎ手や山車の引き手に振舞酒を勧めていく。渡部さんによれば、現在、大山地区には4軒の造り酒屋がある。江戸時代の最盛期には40軒を超える造り酒屋があり、桶屋や大工、塗り師、染め屋など関連の職人たちが町の過半を占めていたという。
江戸時代、大山は幕府の直轄領(天領)で、隣の鶴岡を本拠とする庄内藩に比べて租税がかなり安く、酒造業の競争力が強かった。そこで庄内藩は大山の酒を締め出したため、大山の酒造業者は苦心して、北の松前(北海道南端)や青森、南の新潟やはるか京・大坂にまで販路を広げ、大いに栄えた。
大山頭と上頭の行列が連なった大山犬祭りの一行は、ゆっくりと椙尾神社を目指して練り歩いていく。さすが「犬祭り」らしく、愛犬にはっぴを着せ、手ぬぐいを首に巻いた飼い主たちが沿道に立つ。また、地元の人々が行列に参加しているため、あちこちで親類、友人、知人とあいさつを交わし、記念撮影する姿に心が和む。沿道にはいすを並べた見物席も用意され、周辺の老人養護施設のお年寄りや児童養護施設の子どもたちが年に一度のお祭りを楽しんでいた。
そんな中、上頭と大山頭が椙尾神社の麓に到着。前後して、北の方から下頭の行列もやってきて合流。しばしの休憩の後、3地区のお神輿がお宮の急な石段を駆け上がり、全行列が境内に集合。天狗が先導し、境内を三巡して華やかな祭礼が無事、幕を下ろした。
めっけ犬を乗せたお神輿
犬曳の子どもたち
人身御供に見立てたお姫様
道化役の奥方奴
昔ながらの造り酒屋の前を通り、一行は神社へ
ご祝儀にお神輿の担ぎ手は鈴を鳴らして大喜び
沿道の人々にも振舞酒が配られる
お神輿がお宮の急な石段を駆け上がる
伊豆半島の付け根にあたる静岡県田方郡函南町に、「かんなみ猫おどり」と呼ばれるユニークな夏祭りがある。
お祭りの参加者が猫のメイクと奇抜な衣装で踊りを楽しみ、グループでその様を競い合う「猫じゃ2(猫じゃ猫じゃ)コンテスト」が評判を呼び、最近は地元ばかりか県外からの参加者も急増し始めた。
いつ、どのようにしてかんなみ猫おどりが始まったのか。かんなみ猫おどり実行委員会のひとり、函南町商工会の前島浩樹さんによれば、今から20年あまり前、同町商工会青年部のスタッフが、町おこしにつながるお祭りをつくろうと考えた。函南町は、箱根山の南麓に広がり、酪農やスイカ栽培などで知られる、緑あふれる町である。しかし首都圏から移住した新住民も多く、一体感に乏しかった。そこで趣向を凝らした、全住民が楽しめるお祭りができれば、というわけだった。
そんな折、商工会青年部の石井司人さん宅の娘さんが、地元の民話にこんな話があると教えてくれた。それが、町中部の丹那地区の山里、軽井沢に伝わる「猫おどり」である。
ある春の夜、藤蔵さんが隣村から帰る途中、村境の竹やぶから話し声が聞こえてきた。
「どうだ、みんな集まったかい」
「いや、まだ上の白が来ていないぜ」
やがて白が現れたらしく、
「お前が来ないばっかりに、踊りが始められないじゃないか」
「白やい、今夜はお前が笛を吹けよ!」
と言うと、白が「今夜は、笛が吹けないよ」と答えた。
「どうしてだ!」
「おれは今夜、夕飯に熱いおじやを食わされ、舌をやけどしてしまったよ」
そんな不思議な会話を聞いた藤蔵さんが家に帰り、「猫の白に今夜は何を食わしたな?」とかみさんに聞くと、「なんにもなかったもんで、残りのおじやをくれました」と答えた。
石井さんはこの民話を仲間に伝え、猫おどりを始めないかと提案。賛同を得て、実行委員会を作り、地元企業や商店などから寄付を募って準備活動を始めた。
まず、民話「猫おどり」の舞台として、軽井沢にある泉龍寺に相談。本堂裏手に猫塚を作り、門前に「猫おどり発祥の地」という石碑を建てさせてもらった。また、高松市の木彫家に制作を依頼した一刀彫りの猫のご本尊を、同寺に安置させてもらった。
夏祭り当日、泉龍寺からご本尊を会場の丹那小学校に運搬。協賛する化粧品会社の美容部員が参加者に「猫化粧」を施し、竹やぶをイメージした舞台で、民話朗読から猫おどり、猫おどりコンテスト(現「猫じゃ猫じゃコンテスト」)を行うなど手作りイベントが始まった。1988年夏のことである(今年7月26日開催の猫おどりが第21回大会)。
夏祭りのポスターと猫のご本尊
以来、猫おどりは地元の人々の夏の風物詩として定着していった。しかし、会場が山間の小学校で交通の便も悪く、それほど集客力もない。そこで商工会青年部では、4年程前、町西端部を流れる狩野川河川敷(肥田グラウンド)で、花火大会が中心の「かんなみワクワク狩野川まつり」を主催する町観光協会と交渉し、広い会場で毎夏、合同で夏祭りを開催することにした。
猫おどりと花火大会というふたつのイベントが融合した結果、相乗効果で年ごとに参加者が増え、現在では1万2千人を超えるほどになった。
お祭り当日、朝からお社を設営し、ご本尊を安置。舞台や猫化粧ブースなどを整えていく。同時に花火装置の設置や縁日、模擬店の設営も進行する。
そうして午後3時前に「かんなみワクワク狩野川まつり」の開会式。すぐにパラグライダーによるお菓子投下、子どもシャギリ(笛、太鼓、鉦のお囃子)、かんなみサンバやよさこい踊りなどが繰り広げられていく。その間、猫化粧を済ませた参加者たちが会場内をはしゃぎ回り、お祭り気分も高まっていく。
なお、プロの美容部員がボランティアで行う猫化粧は、舞台用のドーランを使った本格モノ(当初、劇団四季の「キャッツ」のメイクを参考にした、とか)。また、頭につける猫の耳などの飾りは、地元の福祉作業所の人々が心を込めて作った作品である。
かんなみ猫おどりは午後5時45分に始まり、先に記したように、猫おどり民話の朗読、全体おどり、猫じゃ猫じゃコンテストへと続いていく。
前後2回のコンテストには、小中高生から若者、主婦などのグループがJポップから演歌まで好きな曲をバックに、ストリートダンス風、コスプレ風、一輪車の曲乗り風などさまざまな衣装とパフォーマンスでお得意の猫おどりを演じ、会場は大いに盛り上がる。
コンテストの発表と表彰式の後、猫もちまき大会が行われ、その後、会場の真上に鮮やかな色と光あふれる、迫力満点の花火大会が展開されていく。そうしてフィナーレとして参加者全員が猫総おどりに熱狂し、真夏の夜の祭典が終了する。
猫化粧でお祭り気分
猫化粧ではしゃぐ子どもたち
猫化粧をしてもらう参加者たち
よさこい踊り
大にぎわいの夏祭り
子どもシャギリ
猫おどり民話の朗読

猫じゃ猫じゃコンテストでのパフォーマンス
迫力満点の花火が夜空を飾る| *この記事は、2008年8月20日発行のものです。 |
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