骨折
ネコと車社会との関係は、犬よりもずっと深刻だ。 また「サルも木から…」ではないが、近年は高層住宅から落ちて大怪我をするネコも目立っている。 内憂外患の世の中におけるネコと骨折について考える。
監修/中山獣医科病院 院長 中山 正成

ネコと交通事故

イラスト
illustration:奈路道程

 

 「Dog Clinic 骨折」で骨折原因のほとんどが交通事故だと記したが、改めて言うまでもなく、交通事故によって大怪我をしたり、命を落とすネコは犬の何倍も多いに違いない。いかに動きが敏捷でも、屋外への出入り自由な家ネコなら、気ままに道路を横断する機会が無数にある。またすぐパニックになって、道路の中央で静止したり、反対に車に向かって走り出すケースも少なくない。おまけに体が小さいから、いかに骨が犬よりしなやかで丈夫でも、車にはねられるより、ひかれてしまうのも道理である。
 それにネコは、戸外で物音に驚くと、すぐ駐車場に止まる自動車の下に潜り込むクセがある。そのうえ冬場など、自宅の車のエンジンルーム下で暖をとって仮眠したりする。飼い主が、朝、それを知らずにエンジンをかけて巻き込まれたり、ひかれたりすることもしばしばある。車を車庫から出す前に、わが家のネコの所在を確認することが重要だが、車の事故を防ぐには、室内飼いを徹底させるほか方法はない。
 ネコ免疫不全ウイルスやネコ白血病ウイルスなど難病対策も考えれば、「室内飼い」が現代社会における、最も安全・確実な飼い方といえるだろう。

高層住宅からの転落に注意
骨折した骨盤。
レントゲン写真

プレートとピンで固定。

レントゲン写真
 といって、「家の中」暮らしでも「骨折」の可能性はある。それはマンションなど高層住宅での室内飼いの場合、高い自宅のベランダや廊下から外(つまり空中)に飛び出したり、手すりから足をすべらせて落ちたりすることが意外に多いからである。人間の子どもたちでも、高層住宅で生まれ育つと、「高所」に対する「正常な恐怖感」が欠落して、平然と手すりに登ったり、極端に言えば、まるで縁側から庭に下りるみたいに飛び降りることもあるという。「高層」暮らしのネコ(や犬)でも同様の事故がしばしばある。せめてベランダで、外の空気を味わわせてあげようという親心がアダになるわけだ。
 ついでに言えば、ネコや犬は高所から落ちても、前足を先に着地するため、まず前足を骨折し、次いでアゴのあたりを怪我しやすい(人間の場合は、無意識のうちに(後)足で立とうとして足を折る)。
 また自動車事故などでは、足や肋骨、脊椎などのほか、ネコの場合は骨盤を骨折する場合が多い。しなやかで回復力の強いネコなら、骨盤の骨折でも、自然治癒することも少なくないが、そのときは思わぬ後遺症に苦しむことになる。というのは、折れた骨盤がいびつにくっつくと、元々狭い骨盤がさらに狭くなり、排尿や排便がうまくできなくなりやすいのである。骨盤の内腔がウンチの太さより狭くなれば、毎日、壮絶な「便秘」に苦しむ結果になる。
 事故や怪我のあと、たとえ大丈夫そうに見えても、必ず動物病院で治療を受け、元通りに整形してもらう必要がある。なお、すでに骨盤骨折などにより、ひどい便秘に苦しむネコには、蝶番のようなプレートを骨盤にはめ込んで、内腔を広げる手術が有効である。

自宅でできるリハビリ法
   「Dog Clinic 骨折」で述べたように、脊椎損傷などで下半身麻痺などになった場合、「車いす生活」は機能回復にとても役に立つ。
 それ以外にも、自宅でできるリハビリ方法はいくつかある。その一つが風呂場での「水中遊泳法」である。まず、空の浴槽、あるいはタライにネコや犬を入れる。そうして恐怖心を起こさないように、ごく少しだけ、体温ぐらいのぬるま湯を入れる。そうしてだんだんに湯の量を増やしていく。動物は、基本的にだれでも泳ぐことができる。だから、湯が深くなれば、4本の足を動かして泳ごうとする。毎日、練習していけば、動かなかった後足が浮力に助けられて、少しずつ動きだす。そうなればしめたもの。今度は湯の量を減らして、足先が底をかけるようにする(底にゴムのマットなどを敷いておくこと)。だんだんに麻痺した足に力が戻ってきて、やがて自分の4本の足で歩けるようになる。
 水嫌いのネコなら、湯水に慣らすのが大変だろうが、ここはがんばって、リハビリに努めること。ネコの特徴は、何事にもあきらめないことだ。飼い主もその精神を見習って、毎日コツコツとリハビリ生活を送らせてほしい。そのほか、千年灸などの簡易お灸を脊椎の両側にしてあげるのもいい。部分的に温められると、局所の神経が刺激される。また、インク切れのボールペンの先などでネコや犬の足の裏のパッドの「間」を刺激してあげるのもいい。針も有効だが、素人には危険。動物病院で針治療を受けるのもいいだろう。
 このようなことを考えると、子ネコ、子犬のときからシャンプーなどで湯水に慣らし、ひまがあればスキンシップを積み重ねていれば、万一の場合、自宅でのリハビリ生活もあまり苦労せず、取り組めるに違いない。元々、犬もネコも飼い主とのスキンシップは大好きだ。人でも動物でも、治療の原点が「手当て」にあることは変わりない。

*この記事は、1997年11月15日発行のものです。

●中山獣医科病院
 奈良県奈良市南袋町6-1
 Tel (0742)25-0007
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