骨折
犬はネコに比べて、骨が固く、もろく、折れやすいという。
散歩の時、ふいの飛び出しで交通事故に遭い、あちこち骨を折る。事故に遭えば、骨折ばかりか、脳や脊髄などの神経組織、内臓へもダメージを受けることがあり、体の麻痺や命に関わることも少なくない。
監修/中山獣医科病院 院長 中山 正成

交通事故と緊急手術
骨折した足。
事故後のレントゲン写真

プレートとピンで固定。

手術後のレントゲン写真
 われわれの体は、大小さまざまな骨が組み合わさった「骨格」によって成り立っている。座るのも、立つのも、寝るのも、動くのも、話す(吠える)のも、それらの骨組みと骨組みを支える筋肉と、無数の神経細胞の働きがあればこそ。脳細胞や心臓・肝臓などの内臓も、頭蓋骨や肋骨に守られているおかげで、日々無事に役割を果たすことができる。
 そのように重要な「骨」の怪我、犬(やネコ)の骨折の最も多い原因は、交通事故である。確かに犬の放し飼いが減った今、昔に比べて少なくはなった。しかし散歩の途中、突然ほかの犬と出会ってじゃれたりケンカして、あるいはふいの物音に驚いて、リードを持つ飼い主を振り切って路上を駆け回り、自動車やバイクにひかれる犬は少なくない。
 事故に遭えば、1分1秒を争って動物病院に駆け込むこと。「骨折」は、単なる骨折に止まらない。出血がひどければ、大変だ。それに(先にふれたが)、「骨」は体を支え、脳や内臓、神経などを守り、体を自由に動かす重要な役割がある。だから、「骨折」が即、それらの臓器の損傷や機能の障害、そして生死まで左右する場合が多いのである。
 脳・神経細胞は、わずか数分でも酸素の供給が止まれば、死んでしまう。肋骨が折れれば、肺などの内臓を傷つける。脊椎が折れれば、中を通る脊髄(神経細胞)へのダメージが大きく、神経麻痺を引き起こす可能性がある。とくに交通事故の場合、内臓破裂、膀胱破裂などを伴うこともよくある。骨折治療の前に、「生命維持」のための緊急手術が必要なのである。

手術後の安静、回復、リハビリ生活
   緊急手術で生命維持に成功すれば、骨折治療である(脊椎損傷の場合は、同時並行で治療する)。骨が粉々になった粉砕骨折でも、バラバラに折れた骨をプレートとピンで固定したり、骨の中に細いステンレス棒(髄内ピン)を入れ、そのピンが動かないように外部からワイヤーで固定すれば、数カ月できれいに治ることが多い。
 といっても問題がある。犬やネコは、入院中のストレスが大きく、たとえ飼い主が毎日面会に来たとしても、入院期間はせいぜい1週間か10日が限度となる。あと、自宅でいかに安静を保ち、患部への負担を減らして治癒させるか、である。また、安静期間といえども、排便・排尿の問題もある。散歩ルートの草むらが定位置なら、抱えるか、ベビーカーに乗せるなどして、いつもの場所まで連れていってあげるのがいい。外の風に当たり、外のにおいを嗅げば、犬は気分が高揚する。自然、回復力も高まっていく。(言うまでもなく、安静期、回復期の食餌は、栄養価が高くて、食べやすく、消化吸収のいいフードを与えること。)
 また脊椎損傷などの場合、後遺症の神経麻痺で後足が動かないと、「車いす生活」となるケースもある。そんなときでも、あまり悲観しないほうがいい。動物は無用の悲観や絶望感にとらわれることはない。痛みが取れ、傷が癒え、食欲が出てくれば、足の不自由も気にせずに、生きていこうとする。そうなれば、車いすで積極的に散歩に連れ出すことが大切だ。前足を動かして歩き出せば、動かない後足にも力が入りだす。そんな生活を繰り返すうちに、半年、あるいは1年後に神経麻痺から回復し、みずから4本の足で地面を歩けるようになる犬たちも数多い。「車いす生活」は、大切なリハビリの手段なのである。(家の中でのリハビリ訓練については「Cat Clinic 骨折」でふれる。)

事故防止には、ふだんの「しつけ」が一番
   人間でいえば骨粗鬆症気味の小型犬は、抱っこの状態から床や地面に落としただけで前足を折ることも少なくない。ふだんから栄養バランスと運動不足解消に努める必要がある。人間の場合もそうだが、いかにカルシウムを摂取しても、日光に当たり、適度の運動をしないと丈夫な骨にならない。ついでにいえば、日常生活での骨折の要因に「肥満」と「老化」がある。栄養、運動、休養がすべての元気の「素」である。
 では、交通事故対策はどうすればいいのだろうか。
 何よりも重要なのは、子犬のときからの「しつけ」である。どんなときでも、飼い主が「マテ」と言えば静止する「しつけ」ができていれば、放し飼いでない限り、ほとんどの場合、急な飛び出しなどによる事故は防ぐことができる。食餌の前のマテだけでなく、散歩の前、散歩途中にもしばしば「マテ」を繰り返すこと。また、犬が先導する「飼い主が散歩させられる」スタイルでなく、つねに飼い主が先導し、主導権をもって動くことを心がけるべきである。そのためには、散歩の時、何度も方向転換して、「飼い主に従う」習慣をしっかり身につけさせる必要がある。飼い主のふだんの心がけで、犬の交通事故は確実に減らすことができる。日々の「しつけ」で事故をなくす。それがほんとうの愛犬家ではないだろうか。

*この記事は、1997年11月15日発行のものです。

●中山獣医科病院
 奈良県奈良市南袋町6-1
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