糖尿病
ネコの糖尿病には、ガリガリにやせる「インスリン依存性」タイプと、ムクムクと太って一見、健康そうに見える「非依存性」タイプがある。 中年期以降はとくに体調や体型の変化に要注意。
監修/赤坂動物病院 医学部門ディレクター 石田 卓夫

「ハッピー糖尿病」の危険な要因とはなにか

イラスト
illustration:奈路道程

 

 糖尿病には、糖分を体の細胞に押し込むインスリンが出ず、見るからに病気といえる、体がガリガリにやせていく「インスリン依存性」タイプと、ムクムクと太って、一見、健康そうに見えるが、インスリンの働きが悪く細胞が糖分を活用できない「インスリン非依存性」タイプがある。
 犬の場合は、ほとんどが「依存性」だが、ネコの場合は、「依存性」「非依存性」の両タイプがあり、これまでの症例から言えば、「依存性」約7割に対して、「非依存性」約3割の割合である(「依存性」タイプの治療については、Dog Clinic「糖尿病」参照)。
 太って、一見、健康そうに見える「非依存性」タイプを、その外見から、アメリカでは「ハッピー糖尿病」と呼ぶが、現実は、決してそうではない。インスリンの働きが悪いために、膵臓では、今まで以上にたくさんインスリンを分泌し続けてインスリン産生機能が弱り、ついにはインスリンを分泌できない「依存性」糖尿病に進行することが少なくない。
 せっかくインスリンが正常に分泌されてもその働きが悪くなる理由にはいくつか考えられる。そのひとつが、よく太ったネコの皮下や内臓周辺にたっぷりと蓄えられた「脂肪」のせいである。だから、体重を落とすだけで、インスリンの働きが正常にもどることも多い。
 また、過度のストレスも症状悪化の要因である。ネコや犬も人間も、ストレスがかかると、副腎から、ストレスに対抗して体を活性化するホルモンと体を守るホルモンが分泌される。これらのホルモンは、ともに血糖値を上げる働きがある(動物病院にネコや犬を連れてゆき、検査や治療などをすると、自然に血糖値が上がり、正確な診断がつかないことがあるのはそのためだ)。だから、飼い主とのコミュニケーション不足や室内暮らしによる運動不足などが重なると、ストレスが持続して血糖値が高いままとなり、結果、インスリンの働きが衰え、症状が悪くなっていく。
 そのほか、性ホルモンがインスリンの働きを邪魔して、発情のたびに血糖値が上がり糖尿病の症状を示すケースもたまにある(これは、割合に犬にめだつ)。そんな場合は、避妊手術で子宮と卵巣を切除すれば、それだけで治ることも多い。

肥満解消のための安全、確実な減量作戦
    太りすぎ対策の減量について言えば、素人療法は、危険である。急激に減量すれば、体内で溶けた脂肪が肝臓にたまる脂肪肝という病気を併発することもある(たとえば、太ったネコが36時間以上食べないでいると、それだけで脂肪肝になりかねない)。
 愛猫や愛犬の減量に取り組むときは、かかりつけの獣医師の指導のもと、綿密な減量プログラムに基づいた食餌療法によって、何ヵ月もかけて、慎重に目標体重に近づく努力を重ねていくべきである。なお、人間界では「やせ願望」のために過度の減 量に挑み、拒食症やその反動の過食症におちいる事例が増えている。幸い、動物の場合は、食餌内容や食餌量、回数を飼い主がコントロールできるため、飼い主の熱意と努力、根気さえあれば、獣医師の適切な指導に従えば、無理なく、確実に減量できる可能性が高い。
 とにかく、減量に取り組む前に、なぜウチの愛猫や愛犬が太りすぎたのか、その要因を冷静に見つめることが必要だ。食餌が高脂肪・高カロリーすぎたのか。食餌やおやつの量が多すぎたのか。人間用の食べ物を与えすぎたからか。運動不足、遊び不足か、愛情不足だったのか…。思いあたる要因があれば、それら問題点を解消する対策を行いながら減量プログラムを実践しないと、効果が期待できないといえるだろう。

糖尿病は、ネコの三大老年病のひとつ
   ネコは本来、自然に食欲をコントロールする動物だ。むやみに食べる、むやみに太る、むやみに水を飲む、むやみにオシッコをする、むやみにやせる、そんな状態が始まれば、体か心のどこかに問題が生じていると思って、間違いはない。すぐに動物病院でくわしい検査を受けるべきだ。飼い主はつい、自分の体調や体型の変化に引き寄せて、自分も中年太りだから、よくのどが乾くから、自分もビールを飲むといっぱいオシッコをするから、頭が少し薄くなってきたから、ウチのネコや犬も、太ったり、水をよく飲んだり、オシッコをたくさんしたりしても不思議じゃない、と思いがちだ。しかしそれは安易な擬人化による、独断と偏見なのである。
 たとえば、糖尿病の典型的な症状といわれる「多飲多尿」や「やせ」が始まれば、糖尿病以外にも甲状腺機能亢進症や慢性腎不全のような、一命にかかわる病気の可能性が高い(これら3つの病気は、ネコの三大老年病ともいわれる。避妊していない雌犬の場合、「多飲多尿」と食欲不振、お腹の腫れなどがめだてば、子宮蓄膿症のケースも少なくない)。
 甲状腺機能亢進症は、老年期のネコに見られる甲状腺ホルモンの異常分泌によって起こる。体の細胞の新陳代謝が極端に活発になり、いくら食べてもエネルギーが浪費されて、どんどんやせていく。一見、元気そうで、食欲がどんどん増し、発情期のように興奮したり、呼吸が荒くなったりする。放置すれば、心不全や過呼吸などで死に至る。
 また腎不全も老年期のネコに多い病気だ。日頃、塩分の多い食餌を続けていたりすれば、腎臓が機能障害を起こして、ついに血中の老廃物を取り除くことができなくなり、尿毒素が体内をめぐり、吐き気や食欲不振、口内粘膜や腸粘膜が潰瘍を起こし、下痢や出血が止まらず、栄養を吸収できず、衰弱死する。
 いずれもこわい病気である。

*この記事は、1998年1月15日発行のものです。

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