糖尿病
糖尿病とは、体に余分な糖分が余って起こる病気では決してない。体に必要不可欠な糖分が体(の細胞)に活用されずに起こる、(放置すれば)一命にかかわる病気である。
監修/赤坂動物病院 医学部門ディレクター 石田 卓夫

体の細胞が糖分を活用できなくなれば、大変

イラスト
illustration:奈路道程
 動物の体を構成する細胞は、体に取り込まれ、蓄えられた糖分を血液から吸収して、エネルギー源として活用する。そのとき、血液に含まれる糖分を細胞内に押し入れる役割を果たすのが、膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンというホルモンだ。しかしもしインスリンが出なくなるか、あるいは出てもその働きが弱まれば、細胞が糖分を吸収・活用することができず、血糖値(血液の中の糖分の値)が上がったままになる。
 本来、動物の体はよくできていて、血中に含まれる余分な糖分は腎臓で回収され、再活用される。しかし血糖値が上がって、ある一定の値(動物によって多少異なり、犬はほぼ人間と同じ。ネコはそれよりも高い)を越えると、せっかく食餌から取り込んだ糖分は、活用されることもなく、尿にまじって排出される。糖尿病といわれるゆえんである。
 体(の細胞)が必要とする糖分が不足すれば、食欲が異常に高まり、食べ物から糖分を取ろうとする。しかし細胞まで届かない。だから体は、自分の脂肪を活用しようとする。そのために体はどんどんとやせていく。尿の中に糖分が捨てられれば、当然水も多めに捨てられる。そうするとのどが乾き、水をガブ飲みすることになる。さらに悪いことに、自分の脂肪を活用しようとすれば、ケトンという有毒物質が血中に溶けだし、血液が酸性化する。そうなれば、吐き気や嘔吐が起こる。また血糖値が上がりっぱなしだと、血液がねばついて、いろいろな器官の血管にも影響がでる。このため肝臓や腎臓の機能が低下する場合もある。
 糖尿病は、発見が遅れ、治療が手遅れになれば、一命を奪いかねない病気なのである。

多飲多尿・どか食い・異常やせが危険信号
   もし愛犬が水をガブ飲みして、たくさんオシッコをしたり(多飲多尿)、食欲旺盛でどんどん食べるのに異常にやせてくれば、糖尿病を疑って、すぐに動物病院で検査を受けるべきだ。  なお、糖尿病には、血中の糖分を細胞に押し込む働きをするインスリンが分泌されずに(体がガリガリにやせて)起こる「インスリン依存性糖尿病」と、肥満などでインスリンの働きが低下して起こる「インスリン非依存型糖尿病」がある。犬の場合はほとんどが「インスリン依存性」だといわれる(ネコは両方ある)が、ごくたまに肥満傾向の犬や雌犬で発情にあわせて糖尿病になるケースもある。脂肪が多いと、インスリンの働きが低下する。また脂肪分の多い食餌ばかりだと膵臓の機能が低下し、インスリンを分泌する膵臓内の「ランゲルハンス島」に悪影響をおよぼし、「インスリン非依存性」から「依存性」糖尿病になる可能性も高い。さらに卵巣から分泌される黄体ホルモンはインスリンの働きを妨害する。  糖尿病の検査は、血中の糖分の値を測る血糖値検査(12時間絶食後)と、尿中の糖分(尿糖)を測る尿検査がある。血糖値は、食後高くなり、一定時間が経つと減少する。だから空腹時に血糖値が高いのは要注意である。もっとも、病院での検査によるストレスなどで血糖値が上がるケースもあるので、犬やネコの気分を鎮めたあとに採血する必要がある。尿検査は、尿スティックを使って簡単に行えるので、飼い主が自宅で行うことができる。多飲多尿・やせ・多食などの症状があり、血糖値が高く、同時に尿糖が検出されれば、糖尿病と見てまず間違いない(犬の場合、血糖値が180〜220mg/dl、ネコの場合、260〜300mg/dlを越えると尿中に糖分が出ると考えられている)。

生涯続けるインスリン注射療法
  犬が「インスリン依存性」糖尿病になれば、以後、毎日、インスリンの注射を打ち続けなければならない(注射の回数は、1日に朝夕2回か1回)。通常、犬が糖尿病になるのは、中年以降(7〜9歳)がピークだが、早ければ4歳ぐらいから老齢犬まで。けれども、適切な量のインスリン注射を毎日打ち続ければ、余病を併発しないかぎり、予想以上に元気に寿命を全うできる。それほど悲観せず、治療に専念すべきである。
 毎日注射すべきインスリンの量を正確に決定するためには、2ヵ月前後、慎重に検査入院や通院を重ねていかなければならない。インスリンの量が少なすぎれば、血糖値は下がらないし、量が多く効きすぎれば、急激に血糖値が低下して、体がフラフラし、ひどければ昏睡状態におちいることもある。焦りは禁物である。
 ふだんのインスリン注射は、毎日のため、そのつど動物病院に通院すれば、動物への心身の負担も大きい(先にも記したが通院のストレスで血糖値が上がりやすい)し、飼い主も手間ヒマがかかり、費用もかさむ。獣医師の指導を受け、自宅で飼い主自身が注射することが大切である。
 また食餌への配慮も重要で、「インスリン依存性」糖尿病でやせているなら、栄養バランスのよい総合食をきちんと与えて体力の回復をはかっていかなければならない(肥満などの「非依存性」についてはCat Clinic「糖尿病」を参照)。
 愛犬が中年すぎになれば、体調の変化に十分気をつけ、できれば半年に1度ぐらい、血糖値や尿糖の定期検査をすることが望ましい。とくに大型犬は、小型犬に比べて寿命が短いため、5歳前後から発病する可能性が高い。成犬にとっての1年は、人間なら5年ほどの肉体変化が生じる期間で、わずか半年でも人間にすれば2年半の歳月に等しいといえる。人間と比較にならないほど、早く成長し、早く老いを迎えるのが犬やネコたちである。ことに中年期以降、愛犬や愛猫の健康管理に人間以上の関心を示していても、決して過保護ではない。

*この記事は、1999年1月15日発行のものです。

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