貧血
犬に比べて、ネコには難病が少なくない。 同じ貧血でも、難病中の難病「ネコ白血病ウイルス」に起因する貧血がきわめて多い。 ふだんの健康管理、生活管理が何よりも重要といえる。
監修/シモダ動物病院 院長 下田 哲也

ネコ白血病ウイルスによる貧血

イラスト
illustration:奈路道程

 

 ネコの貧血の原因には、犬に多い「免疫介在性溶血性貧血」はそれほど多くない。またバベシア症もネコには無縁である。その代わり、やはり赤血球にとりつくリケッチア「へモバルトネラ」によって引き起こされる貧血もある。
 しかし何と言ってもネコにとって脅威なのは「ネコ白血病ウイルス」による貧血である。このウイルス(FeLV)はネコの血液の製造工場といえる「骨髄」に入り、猛威をふるう。FeLVは骨髄でつくられる赤血球のモト(赤芽球という)を破壊してしまう。そうなれば、出血や溶血がなくても、血液中の赤血球がなくなっていき、悪性貧血を起こすことになる。「Dog Clinic 貧血」であげた「免疫介在性溶血性貧血」や「バベシア症」「タマネギ中毒」などは、赤血球が壊されても、赤血球をつくる機能は維持されている。しかしFeLVでは造血機能に障害が出るため、血中の赤血球に寿命がきても、新たな赤血球が生まれない。大変なウイルスである。

ネコ白血病ウイルスの治療
   「ネコ白血病ウイルス」は、赤血球の造血を阻害するだけではない。白血球の造血を阻害すれば、体内の免疫が低下してさまざまな感染症で一命を落とすことになる。またウイルスのせいで異常な白血球ばかりが増加すれば白血病となる。誠に恐ろしいウイルスである。
 治療法としてはインターフェロンを使ってウイルスを弱らせ、さらに、ネコの免疫力を高めて自然治癒を待つしかない。生後1年以上の成ネコの場合、早期発見・早期治療で適切な治療を行えば、治療効果も高いが、いったん発症したネコの場合、シモダ動物病院では治療後、3年以上生存のネコは5割以下。5年以上生存のネコは非常に少ない。特に生後間もない子ネコの場合、抵抗力が弱く、危険性はきわめて高い。
 感染経路は、FeLVにかかったネコの唾液から。ケンカしたときのかまれ傷、あるいは子ネコなら、感染した親ネコになめられて二次感染する。東京のある動物病院で来院ネコを無作為に検査したとき、12%あまりのネコにFeLV感染がみられたという(ネコエイズは20%ほど)。概して、マンションなどでの室内飼いの多い都会では少なく、ネコが屋外を自由に歩き回る地方都市などで感染率が高いという。ワクチンもあるが、決して100%の予防力はない。また同様に唾液などから感染するネコエイズ対策のためにも、野良ネコ密集地域などでは室内飼いや避妊・去勢を行って、感染の機会を減らすことが大切である。

「ヘモバルトネラ症」による貧血
ヘモバルトネラ症の血液。
顕微鏡写真
 はじめに述べた「ヘモバルトネラ症」の場合、感染経路は不明で、現在、カやダニなどの吸血性昆虫の関与や母子感染が疑われている。もっともこのリケッチア「ヘモバルトネラ」に効果的な抗生物質などの薬剤があり、治療効果が高い(しかし根治することはむずかしく、再発するケースも多い)。
 これまでの症例から、ネコ白血病ウイルスに感染したネコが「ヘモバルトネラ症」にかかりやすいことが知られている。同じ貧血といっても、ネコの場合、難題となるケースが多い。おまけに、「早期発見・早期治療」というが、散歩などで飼い主と一緒に動き回る犬なら、貧血で弱ってくれば、すぐに発見できるが、ひとりでうろつき、家のなかではたいていゴロゴロしているネコは、かなり重症にならないと飼い主が気づかないケースがほとんどだ。
 もっとも、幸いといえるかどうかわからないが、ネコは犬と違って血液型がA・B・AB型の3種類しかなく、そのうえほとんどがA型なので、緊急の場合、輸血して命をつなぐことがやりやすい(一方、B型のネコは輸血することがむずかしい)。
 ついでにいえば、輸血のドナーとなるネコ1匹で1回に採血できる量は40〜50cc。中型以上の犬なら人間並み1回200ccは採血可能という。動物病院で飼われている犬やネコにはボランティアで緊急時、輸血を行うことも少なくない。また、動物病院のなかには、来院の飼い主に呼びかけて、手術や急病時にお互いが輸血の手助けをするドナー登録制度を運営しているところもあるという。

*この記事は、1997年9月15日発行のものです。

●シモダ動物病院
 岡山県赤磐郡山陽町岩田
 Tel (08695)5-1543


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